日本の古き良き文化として知られている伝統工芸品。
あまり関心がない人でも、伝統工芸品と聞けばなんとなくイメージはできるのではないでしょうか。
しかし、いざ伝統工芸とは何か?と尋ねられると答えに詰まってしまう人は意外と多いのです。
ここでは伝統工芸とはどういったものなのかを分かりやすく解説していきます。
認定されるための基準や有名な伝統工芸についても紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
伝統工芸品とは?
そもそも伝統工芸とは、簡単に説明すると“長年受け継がれてきた日用品”を指します。
芸術品やアート作品のようなイメージを持っている人もいますが、もっと身近で私たちの生活を支えてきた製品がほとんどです。
例えば、食事に使うお椀やうちわなどの伝統工芸品もあるのです。
100年以上の歴史を持つ伝統工芸品が多く、長いものだと1000年以上前の素材・技術が現代にまで受け継がれています。
今まで意識していなかっただけで、あなたも伝統工芸品に関わっているかもしれませんね。
作る目的は日常の暮らしを豊かにするため
伝統工芸品を作る目的は、日常の暮らしを豊かにするためです。
生活必需品として、冬の寒さに耐えられるように身にまとうものとして「織物」が作られたり、漆などを塗る道具として「刷毛」を作ったりしていました。
伝統的工芸品の数は全国に236品目!
伝統工芸の技術などを生かした製品は伝統工芸品と一般的に呼ばれますが、中でも経済産業大臣に指定されたものを伝統的工芸品と呼びます。
伝統的工芸品は厳しい条件をクリアしなければ認定されず、100年以上の歴史を築いている文化の1つです。
現在、全国に236品目の伝統的工芸品があります。
各都道府県にあるので、お住まいの地域や地元で探してみてください。
伝統的工芸品は法律によって定められている
先ほど紹介した伝統的工芸品は、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づき、経済産業大臣から指定されています。
指定要件は以下の5つです。
- 主として日常生活で使われるものであること
- 製造過程の多くが手作りであること
- 伝統的な技術や技法により製造されていること
- 伝統的に使用されてきた原材料を使っていること
- 地域産業として成立していること
1.主として日常生活で使われるものであること
伝統的工芸品は私たちの日常生活で使われているものでないと認められません。
毎日の食事に使うお椀や箸、お祭りや祝い事での着物、風鈴やうちわなどのように古くから生活を支えてきたことが要件の1つに入ります。
工芸品は「用の美」と言われていて、日常生活で使われることが前提となっているのです。
また、冠婚葬祭などの行事で年に数回のみ使用される場合も「日常生活」に含まれます。
2.製造過程の多くが手作りであること
工芸品が作られる過程の大部分は、機械を使わず手作りされています。”手作り”ということも、伝統的工芸品として認められる要件に含まれます。
古くから継承されてきた伝統的な技術・技法を用いて、職人が1つ1つ丁寧に手作りすることが重要とされているからです。
そのため、伝統的工芸品は全く同じ製品は存在せず、全てがオンリーワンの製品だと言えますね。
ただ、すべてが手作りでなければいけない訳ではなく、工芸品の持ち味が損なわれなければ、補助的工程に機械を導入することは許可されます。
3.伝統的な技術や技法により製造されていること
工芸品における伝統的とは、100年間以上の継続を指します。
つまり、現在まで技術や技法が100年間以上受け継がれ、製造されていることが伝統的工芸品として認定される要件に入るのです。
4.伝統的に使用されてきた原材料を使っていること
伝統的工芸品の原材料は、木、土、漆、金など日本の天然資源が多く使用されています。
この原材料が100年間以上、不変であることも要件の1つです。
ただし、現在では資源が枯渇していたり、希少価値が高く入手困難になっていたりする場合には、工芸品の持ち味を変えない範囲で、同種の原材料に転換することが認められます。
また、工芸品の原材料が人と自然にやさしい材料であることも重要視されています。
5.地域産業として成立していること
伝統的工芸品は、地域産業として成立していなければいけません。
また、一定の地域で10企業以上または30人以上の製造者がいることも必須条件です。
製造者がたった1人だとしたら、これから先も受け継いでいくのは困難になります。
そのため、技術や技法が長年受け継がれていくためには、ある程度の人や企業が関わる必要があるのです。
日本の代表的な文化とも言える伝統的工芸品の技術や技法を途絶えさせる訳にはいきませんからね。
上記5条件をクリアすると伝統マークが与えられる
上記の5条件をクリアすると伝統工芸品として指定され、伝統マークが付与されます。
伝統マークは、経済産業大臣指定伝統的工芸品のシンボルマークで、国から伝統的工芸品として認められた証です。
日本に数多くある工芸品のうち、伝統マークが貼られる対象は伝統的工芸品のみです。
伝統マークが製品に貼られることで、消費者は一目で伝統的工芸品と認識できるようになります。
伝統工芸品の歴史と簡単年表付き
奈良時代 | 仏教文化が栄え、唐などの大陸の影響で生活用品の材料・技術が向上し多様性に富んだものが作られるようになる。東大寺の正倉院には、様々な文物・工芸品が、宝物として現在まで大量に残されている。 |
平安時代 | 寺院建築や造仏の技術の影響を受けて、金工、木工、漆工の分野で技術が著しく進歩した。工芸品も直線的な形から、ふくらみを持った柔らかな形となり日本的な美意識を持つものが数多く作られた。 |
鎌倉時代 | 武士や農民層の生活文化が著しく発展し、鍛冶、焼物、鋳物、木工などの分野の職人が地位を高める。 |
室町時代 | 中国文化と日本の技術が交わり発展する。明や朝鮮半島との貿易で銅、金、硫黄などの原材料や、扇、漆器、刀剣などの工芸品が輸出され、生糸、絹織物、綿糸、綿布や銅銭などが輸入され始める。 |
安土・桃山時代 | スペインやポルトガルの貿易船が来航し、新しい技術や材料を得て発展した。陶磁器の絵模様などはヨーロッパ文化の影響を受けるものも。 |
江戸時代 | 各地の藩が工芸品を産業としてすすめ、現在まで伝わる伝統的工芸品の技術や技法のほとんどが完成した。 |
奈良・平安・室町時代
奈良・平安・室町時代には外国から伝わってきた優れた技術と日本の文化が混ざり合って、多種多様な工芸品がたくさん生まれました。
飲食具、遊戯具、文房具、仏具、服飾具など、当時の工芸品は東大寺に正倉院宝物として多く残されています。
江戸時代には、鎖国により日本は外国との交流をやめ、日本の文化を育てていく中で、各地方(藩)が競って工芸に力を入れていました。
現代の伝統的工芸品は江戸時代から大きく変わっていないものもあります。
1873年のウィーン万国博覧会で伝統工芸品が好評!
明治政府がはじめて正式に参加した万博は、明治6年(1873年)のウィーン万博です。
ウィーン万国博覧会で日本は浮世絵、錦などの染織品、漆器、櫛、人形、陶磁器や漆器、七宝などの工芸品を出品しました。
新しい日本を全世界にアピールしなければならないという使命で望んだ日本の工芸品は、ヨーロッパで高い評価を受けました。
そして、日本は「美術工芸の国」として世界中から注目されるようになったのです。
第二次世界大戦以降は需要が低迷し生産額も減少傾向
第二次世界大戦が勃発すると、軍需産業が優先され始めます。その影響で工芸品産業は荒廃していきました。
戦後は高度経済成長にともない、大量生産や大量消費が進み、日本人の生活様式が大きく変化します。
価格、量産性の面における競争で近代工業製品に圧倒されたため、伝統工芸品の需要が低迷し生産額も減少傾向になりました。
戦後の経済成長により、効率的に安価で大量の製品生産が可能になったことも、伝統的工芸品が衰退していくことに繋がっていくのです。
伝統工芸品の歴史については、下記記事でも詳しく解説しているので、参考にしてみてくださいね!
伝統工芸品のよさは大きく4つ
1.日本の文化に触れられること
伝統工芸品は、主に日常生活で使われている物がほとんどです。
そのため、伝統工芸品が生まれた地域の文化を知ることに繋がります。
また、使われている原料は、地域特有の資源であることも多いため、伝統工芸品を通してその地域の地形や特徴について知れるのです。
2.手作りによる個性を楽しめる
伝統工芸品は製造過程のほとんどが職人による手作りです。
機械をほとんど使わないので、同じ製品であっても1つ1つに違いが出ます。
模様や形が微妙に異なる点は、オリジナリティがあり、世界に1つだけの製品ともいえます。
職人の手作りだからこそ出る「個性」を楽しめるのも伝統工芸品の良さですね。
3.使い込むことで味が出る楽しみ
日常生活で使うものは、消耗品が多く、使えば使うほど劣化していき、見た目や機能性が衰えていきます。
一方、伝統工芸品は使い込むことで魅力的になったり、使いやすくなったりするのが特徴です。
例えば、漆を塗り重ねて作る漆器は、お椀や箸などの食器製品が多いのですが、使えば使うほど風合いが増すことで、購入当初とは違う魅力を楽しめると人気。
もともと伝統工芸品は職人の手で丁寧に作られているためとても頑丈です。長年使えて製品の経年変化を楽しめるのも伝統工芸のよさですね。
4.壊れても修理することで新しい魅力が生まれる
食器類などは落として割れてしまうことがありますよね。割れてしまったら捨てるのが一般的ですが、伝統工芸品の中には修復可能なものもあるのです。
「金継ぎ」と呼ばれる日本の伝統技術を使い、割れたり欠けてしまったりした器を修復できます。
「金継ぎ」は漆を塗って割れた器を付け、その上から金粉を銀を振る技術。
修復された器は、継ぎ目が新たな模様のようになることで、全く別の魅力を感じられるようになります。
壊れても以前とは違う魅力を見いだせるのは、伝統工芸品の特徴でもあるのです。
伝統工芸品のよさは以下の記事でも紹介しているので、さらに深く知りたい方は、読んでみてください!
有名な伝統工芸品5種類
ここでは有名な日本の伝統工芸品を5種類紹介していきます。
1.宮城伝統こけし(宮城県)
宮城伝統こけしは、昭和56年に指定された宮城県の伝統的工芸品です。
江戸時代中期以後に、東北地方の温泉土産として生まれたものと伝えられています。
宮城県内には、「鳴子こけし」「作並こけし」「遠刈田こけし」「弥治郎こけし」「肘折こけし」の5つの伝統こけしがあり、系統作者により形・描彩にちがう特徴があります。
簡略化された造形の美しさに加え、清楚にして可憐な姿は、山村の自然に囲まれた素朴な工人の心を通じて表現した美しさがあります。産地の独特の形・模様を通じて、今日に受け継がれています。
2.南部鉄器(岩手県)
南部鉄器は昭和50年に指定された岩手県の伝統的工芸品です。
丈夫で割れにくく長持ちする上に、使い込むほどに奥深い味わいが楽しめる特徴があります。
鉄瓶や急須が有名ですが、フライパンや鍋も料理が美味しく出来ると大人気。
最近では、現代風のおしゃれで上品なデザインの製品もあるので、幅広い世代から注目を集めています。
3.有田焼(佐賀県)
有田焼は、昭和52年に指定された佐賀県の伝統的工芸品です。
江戸時代から作られており、軽く硬質で耐久性に優れているという特徴があります。
また絵柄が美しいことでも有名で、かつてヨーロッパの貴族から絶賛されたといわれています。
食器類や壺など、さまざまな種類の製品があり、美しい見た目から食卓を彩る工芸品の1つです。
4.西陣織(京都府)
西陣織は、昭和51年に指定された京都府の伝統的工芸品です。
西陣織は、紗(しゃ)や羅(ら)といった透かし生地や二重構造の風通といった、多彩な織り方が発達している特徴があります。
そして、一般的な染色法である後染めよりも丈夫で、シワになりにくい点も魅力の一つです。
伝統的な着物だけでなく、洋風着物やインテリアなど時代にマッチした製品も製造されています。
5.輪島塗(石川県)
輪島塗は、昭和50年に指定された石川県の伝統的工芸品です。
日本を代表する漆器で、輪島特産の地の粉(珪藻土の一種)を下地に塗り、塗り上げるまでに20工程以上、総手数では75〜124回にも及ぶ、丁寧な手作業で作られています。
頑丈で壊れにくく、非常に美しい見た目が特徴で、世界的にも注目されている工芸品といえます。
ここまで紹介してきた伝統工芸品以外にも有名な製品はいくつもあります。以下記事で詳しく紹介しているので、参考にしてみてください!
伝統工芸品の人気ランキング
最後に、伝統工芸品の人気ランキングTOP5を紹介しておきますね。
気になる方は、ぜひチェックしてみてください。
1位.金沢箔(石川県)
金沢箔は、石川県の伝統的工芸品です。
職人の卓越した技術により、10円玉ほどの小さな金合金を1万分の1ミリメートルの厚さにまで均等に延ばすことで、金沢箔は作られています。
金閣寺や日光東照宮などの建造物に用いられており、織物や九谷焼、漆工芸といったさまざまな工芸品にも使われています。
現在ではファッション、インテリア用品などにも用いられています。
2位.益子焼(栃木県)
益子焼は、栃木県の伝統的工芸品のひとつです。
陶土(とうど)を用いて作られるため、ずっしりとした土の質感を肌で感じとることができ、手に馴染みやすい特徴があります。
食器類の製品が多く、和の雰囲気が素敵なため、人気の伝統的工芸品です。
3位.西陣織(京都府)
多色の糸を使用した美しい模様が魅力的な西陣織は、京都府の伝統的工芸品です。
西陣織の着物に憧れる女性は、多いのではないでしょうか。
織機を使って丁寧に製造されるので、製造には時間を要します。そのため希少性は高く、高級感のある美しい織物が出来上がるのです。
4位.伊万里・有田焼(佐賀県)
伊万里焼、有田焼は、佐賀県の伝統的工芸品。
手にすると薄くて軽いため、壊れやすいイメージを持つ人もいますが、伊万里焼、有田焼は耐久性に優れている点も特徴です。
また美しく色鮮やかな絵柄は目を引き、いつもの食事をより華やかにしてくれること間違いなしです。
旅館や料亭などの食器として使われていることが多いですね。
5位.宮城伝統こけし(宮城県)
宮城伝統こけしは、宮城県の伝統的工芸品です。
宮城伝統こけしは、近年ちょっとしたブームになっているのをご存知でしょうか。
鳴子(なるこ)、作並(さくなみ)、遠刈田(とおがった)、弥治郎(やじろう)、肘折(ひじおり)の主に5つの系統に分かれていて、それぞれ違った特徴があります。
例えば、遠刈田伝統こけしは頭部が比較的大きく、切れ長の目に鼻筋のとおった大人っぽい女性の表情の描彩が印象的なこけしになります。
系統ごとに表情やデザインが違うので、好みのこけしを探してみるのも楽しいですね。
今回は5位までの紹介でしたが、以下記事では都道府県別で人気ランキングを出しているので、ぜひ読んでみてください!
まとめ
今回は伝統工芸とは?について解説してきました。
伝統工芸品として認定されるためには、国が定めた要件をクリアしていなければいけません。
日本の全国各地には、多種多様な伝統工芸品が存在しますので、お住まいの地域や出身地などで調べてみることをおすすめします。
この記事を読んで、少しでも伝統工芸品について興味が湧くきっかけになれたら嬉しいです。